佐藤信敏氏のwebページ(2005年9月30日)より引用


 ノグチゲラって知ってますか?ノグチゲラは沖縄本島北部の大宜見村、東村、国頭村の脊梁山地の照葉樹林に棲んでいます。沖縄本島北部は地球上でこのあたりだけに生息する固有種が多く、学者や研究者は「東洋のガラパゴス」と呼んでいます。

 1886年5月6日、イギリス人の貿易商ジェイムス・プライヤー氏が採集人のノグチ氏と共に沖縄(琉球)を訪れ蝶や野鳥の採集をしました。その際ノグチ氏が一羽の幼鳥を捕まえ、その標本をイギリスの鳥類学の権威であるヘンリー・シーボームに送り「ノグチゲラ」と名付け新種として発表したのが、その由来です。

 1972年に沖縄県の県鳥に選定され、同年5月15日に国の天然記念物、1977年に国の特別天然記念物に指定されました。しかし1972年、沖縄の「祖国復帰」を境にして沖縄振興開発特別措置法に基づく開発で公共工事が急速に行われ、1980年代はノグチゲラの生息地である森林の乱伐により沖縄本島北部は瀕死の状態になってしまいました。

 ノグチゲラの観察、保護活動は1974年から玉城長正氏、中村保氏を中心に数人の方によって行われて、1984年から本格的な保護活動をはじめています。残念なことにノグチゲラの危機的状況を前にして、野鳥の専門家に相談しても動いてくれなかったようです。両氏はマスコミ関係者に働きかけ沖縄本島北部の現状を世間に訴えました。そうした努力が環境庁(現在環境省)の重たい腰を動かし、1987年、沖縄本島北部に国設鳥獣保護区を設けるという野生生物保護の動きが始まりました。しかし、県や国が行った調査は沖縄本島北部の保護にはあまり役立っていないようでした。

 玉城長正氏、中村保氏は10年にわたるノグチゲラの生態を観察して、生息分布、営巣地、天敵、保護問題など多岐にわたる資料を作り上げています。ノグチゲラの数が極端に減り絶滅の危機にある状態の時、1989年に東大助教授の石田健氏によって「オーストンオオアカゲラとノグチゲラ個体群の保護と調査・研究についての提言」という論文が発表されました。その中で森林開発、ダム、林道建設が保護上の問題点として指摘された上で、バンディングによって個体数の把握、変動、生息密度、生態など基礎調査をすることが重要だと述べています。玉城、中村両氏による15年間の観察により、今まさに具体的保護策が必要とされていると明らかにされているときに、基礎調査とは悠長なことです。

 玉城長正氏、中村保氏両氏は、バンディングによりノグチゲラが受ける影響を重要視して、バンディング調査に基づくノグチゲラの保護策に反対しました。バンディングに頼ることなく早急に保護をする事こそ重要だと訴えています。そうしている間にも開発はとどまることなく進んでいきます。1994年5月開通した大国林道に多くのオートバイや車が乗り入れ、ヤンバルクイナ、アカヒゲなどの天敵になる野性化ネコ、イヌ、マングースなどの進入を許し、ノグチゲラ、ヤンバルクイナは滅びる一途にあります また1993年から着工された北進道路、奥与那線は森林生態系や希少生物の生存に壊滅的なダメージを与え絶滅に拍車をかけています。大勢の方が開発に反対をして陳述書、要望書、さらには裁判まで起こして保護を訴えてきました。

 そして石田健氏の論文から実に9年後の1998年7月28日に環境庁農林水産省(現環境省)から「ノグチゲラ保護増殖事業計画」が出されました。

事業の目標として

 「ノグチゲラは、沖縄本島北部にのみ分布する一属一種の中型のキツツキである。本種は、スダジイ等の優占する森林に生息するが、生息に適した環境の悪化等により、現在個体数、生息地とも限られている。本事業は、本種の生息状況等の把握とモニタリングを行い、その結果等を踏まえ、本種の生息に必要な環境の維持・改善及び生息を圧迫する要因の軽減・除去等を図ることにより、本種が自然状態で安定的に存続できる状態になることを目標とする。」 を掲げ

事業の内容の「(2)生物学的特性の把握中」で

「標識の装着等による個体識別やラジオトラッキング等の手法を活用し、個体の移動、分散等の実態や繁殖期、非繁殖期の行動及び行動圏等を把握する。また、本種の食性等を含む本種を取り巻く生態系の構造の解明等に関する調査研究を進める。」としています。

そして、ついに1999年3月から沖縄本島北部の国頭村内の2地域においてバンディングを開始し、合計115個体のノグチゲラに個体識別用の足環を装着し、調査研究を開始しました・・・。

2000年10月4-11日 ヨルダン・アンマン において第2回IUCN世界自然保護会議 が開催されました。(財)世界自然保護基金日本委員会(WWF Japan)(財)日本自然保護協会(NACS-J) (財)日本野鳥の会(WBSJ)の3団体から提出された「ノグチゲラとヤンバルクイナの保全」勧告が採択されました。その中で、国際自然保護連合総会は日本政府に対し以下のことを要請しています。

「山原(やんばる)の亜熱帯林の生物多様性と絶滅のおそれのある動植物の種についての詳細な調査を行い、同地域の保全計画を立案し、 さらに、世界自然遺産への登録を検討すること、およぴ、日米両政府に対し、山原(やんばる)地域における軍事施設建設と演習の計画を、生物多様性保全の観点から十分に検討することを要請する」 

 しかし、その大部分が実現されていないことから 第3回IUCN世界自然保護会議 (2004年11月17-25日,バンコク,タイ)において再度「ノグチゲラとヤンバルクイナの保全」勧告が採択されました。これはジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナ についてでありノグチゲラのみの問題ではないこと、アメリカ合衆国軍の基地建設について等の問題も絡んでいることを付け加えさせて頂きます。日本政府が 自然環境への重大な影響を避けるための最大限の努力を決意したことは評価したものの、IUCN世界自然保護会議は 日本政府に対し 「早急に,ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保護区を設置して、保全に関する行動計画を作成すること」を要請しました。

 更に2005(平成17)年3月16日に財団法人 日本野鳥の会 他3団体から小池 百合子 環境大臣へ第3回IUCN世界自然保護会議における勧告 「日本のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」の履行を求める要請書 が提出されました。その中でも「ジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナ3種のための保護区設定と、保護回復計画の策定に早急に取り組むこと 」が盛り込まれています。

 1999年3月よりノグチゲラにバンディング調査をしているはずですが、その調査結果は保護にあまり生かされていなかったようです。調査結果についての資料を見つけ出すことが出来なかったので詳しい事は書けません。いずれにしろ、少しずつ生態が解明されていたとしても、それが保護につながらなければバンディングされたノグチゲラが可哀相ではありませんか。世界自然保護会議において同じ内容の議案が2度も採択されことは日本にとって恥ずかしい事です。

 

管理人から:ノグチゲラの調査結果は後日、山階鳥類研究所へ出向き調べたいと思います。きっと資料があると思いますので解り次第日記で報告を致します。なお、今回の日記は下記の文献を参考にして書きましたが間違いがありましたら訂正をさせて頂きます。

PS:ノグチゲラに関して山階鳥類研究所には新しい資料はありませんでした。石田健氏が独自にやっている調査に関しての資料は山階鳥類研究所にはないそうです。ノグチゲラの正確な生息数は未だに不明。その生態に関してもわかったこともあるが、未だ不明点が多い。絶滅を危惧されている種に関しての調査に於いて横のつながりがないのは致命的ではないでしょうか・・・と素人は単純に考えてしまいます。

 

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