2005.12.13.その2 


 

質問状に対する山階鳥類研究所からの回答が届きました。いただいた回答に対する疑問点をいくつかまとめてみます。

 

9 標識調査が野鳥の保護に役立った例を教えて欲しい。

回答:現在日本は4カ国とそれぞれ二国間の渡り鳥保護条約(あるいは協定)を結んでおり、国際的な鳥類の保護施策の柱となっています。これらの条約の中で重要な意味を持つ渡り鳥のリスト作成や改訂の際に、鳥類標識調査で得られた回収記録などは必要不可欠な資料として役立っています。また、条約に基づく共同調査でも標識調査の実施が重要視されており、最近ではアメリカとの間でハマシギ、オーストラリアとの間ではベニアジサシ、中国との間ではスグロカモメ、ロシアとの間では日本海を渡る小鳥類の共同調査などが実施されています。また、渡り実態の資料収集や国際間の情報交換を通じて、これらの種の現状と保護の必要性について関係者や一般市民の関心を高めることにも効果をあげています。

 標識調査によって明らかにされた繁殖地と越冬地の関連や渡りの経路などは、渡り鳥の基礎的な生態情報で、これが無ければ長距離を移動する鳥類の効果的な保護策を講じることは困難です。現在環境省などが東アジア地域で進めている、ツル類、ガンカモ類、シギチドリ類のそれぞれネットワークによる保護の構想は、標識調査などの基礎的な情報から発展したものといえます。また、渡りの状況や生息状況を含めて、環境省やバードライフ・インターナショナルのレッド・データブックには、標識調査で得られた資料が活用されています。

 鳥類保護のためには個体数の増減を把握することが肝心ですが、標識調査による個体数の変動のモニタリングもそのための重要な資料となっています。特に視認困難な小鳥類の把握に関しては、標識調査が効果的です。そうした観点から、環境省の鳥類観測ステーションのいくつかでは渡り鳥、繁殖鳥および越冬鳥のモニタリングを実施しており、結果に関しては順次解析して報告書に掲載しています。

 標識調査による渡りの解析や個体数変動(特に急激な減少)の把握が、直接的に保護に役立ったいくつかの実例があります。例えば、1965年以後に個体数が激減したイギリスにおけるノドジロムシクイの減少の主因は繁殖地での農薬の使用ではなく、越冬地アフリカ西部における干ばつと開発の影響であることが標識調査により解明されました。また、イギリスにおける近年のイエスズメの減少は、農作業の変化などによる幼鳥の生存率の減少が主因であることが標識データから解明され、イエスズメをはじめとする農耕地に生息する鳥類の保護が行政によって検討・実施されています。

標識調査で得られる渡りや生態の基礎データは、すぐには直接保護に結び付かない場合でも、鳥獣保護のために必要な基礎的な情報として当然調べておくべき事項に含まれると考えています。たとえば、標識調査により日本で繁殖するオオヨシキリの渡り中継地として中国南部が重要であることがわかっていますが、こういった基礎データがそれぞれの種について十分に蓄積されて初めて、何らかの保護上の問題が起こったときに適切な対策が取れるものと考えています。また鳥の生存率や寿命の研究は、ヨーロッパでは1940年頃から行われ、国内でも標識調査によって多くの種で野外での長寿記録が得られており、こうした知見は鳥類保護管理に不可欠な資料となります。小鳥類の渡りや寿命などの生態を正確に調べる技術は、標識調査の他には知られていません。

このように標識調査は元来、鳥類の渡りのコースや越冬地、繁殖地を明らかにすることを主目的に始められたものですが、鳥の生活や行動、寿命、識別などを研究するのに有効なため、いろいろな研究の方法に取り入れられるようになり、その結果が鳥類保護に有用なデータを提供するようになっています。

 その他、標識調査で用いている鳥類の安全な捕獲技術を応用して、日本において絶滅に瀕したコウノトリとトキを保護増殖の目的のため無傷で捕獲した実績もあります。また、標識調査の技術の応用により、日本産と外国産のメジロとウグイスの識別マニュアルが発行され、密猟防止と違法飼育の摘発に活用されています。さらに最近では標識調査で得られた日本に渡来する鳥類の繁殖地に関する知見が、鳥インフルエンザ対策の立案に貢献すると同時に、標識調査での鳥類の捕獲技術と調査場所に関する情報はウィルスのサンプリングのためにも応用されています。

 

(疑問点)イギリスにおける近年のイエスズメの減少は、農作業の変化などによる幼鳥の生存率の減少が主因であることが標識データから解明され---とありますが、これは標識調査が直接役立った例ではありません。

 「スズメの大研究」国松俊英著,PHP研究所 には次のように出ています。

イギリス政府は2000年11月から3300万円の予算でロンドン都市部でのイエスズメとホシムクドリの調査を始めました。王立鳥類保護協会と大学の共同研究によって、イエスズメが減った原因を解明しています。考えられる原因は、次の5つでした。

1・・・大気汚染により餌になる昆虫が汚染された。
2・・・都市の建物が近代化され巣作りの場所が減った。
3・・・何かの病気が広がった。
4・・・飼い猫の増加に伴う捕食。
5・・・孵化した雛に食べさせる餌となる昆虫の幼虫の不足。

最大の原因は5であることがわかりました。第2回目の繁殖の際(スズメは繁殖期に2度雛を育てます)、雛に与える餌が不足し、巣の半分で雛が死んでいるのが確認されました。 

回答には「農作業の変化などによる幼鳥の生存率の減少が主因であることが標識データから解明され」とありますが、標識調査で「巣の半分で雛が死んでいるのが確認」できるのでしょうか?まだ巣の中にいる雛がかすみ網にかかるというのでしょうか?「 農作業の変化 」が標識調査からわかるのでしょうか?減少の原因のごく一部が標識調査によってわかったと書くべきでしょう。

 

このように、調査の一環としてバンディング「も」行われた時、調査全体の成果が、あたかもバンディングだけによる成果であるように、すり替えられることがあるように思います。

また、海外の例が出てくるのは、日本では具体的成果が全くないということなのではないでしょうか?

 


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